【プレスリリース】インスリンをつくる細胞を増やす重要な「代謝産物」を発見 ~膵β細胞を回復させる新たな糖尿病治療へ期待~
今回、生体調節研究所代謝疾患医科学分野の白川純教授、井上亮太助教らは、国立国際医療研究センター、アルバータ大学(カナダ)等との共同研究で、糖尿病の治療に役立つ可能性のある重要な「代謝産物(体内で物質が変化してできる成分)」を発見しました。この代謝産物は、インスリンをつくる膵臓の細胞「膵β(ベータ)細胞」の増殖を助け、細胞死(アポトーシス)を防ぐ働きがあることが明らかになりました。
膵β細胞の数が減少すると、インスリンが十分に分泌されなくなり、血糖値が高くなって糖尿病の発症につながります。肥満などによってインスリンの効き目が弱くなる状態(インスリン抵抗性)では、体は膵β細胞を増やしてインスリンを補おうとしますが、糖尿病ではこの増殖がうまくいかず、逆に細胞が死んでしまうこと(アポトーシス)が発症や進行の原因となります。そのため、膵β細胞を増やし、減少を防ぐ仕組みを解明することは、糖尿病の根本的な治療につながると期待されています。
白川純教授らの研究グループは、糖尿病治療薬イメグリミンに膵β細胞の増殖促進と細胞死(アポトーシス)の抑制作用があることをこれまでに明らかにしてきました。今回の研究では、体内でのさまざまな代謝産物を網羅的に解析するメタボロミクスという手法を用いて、イメグリミンの作用によって変化する代謝物を詳しく調べました。
その結果、膵β細胞の増殖促進やアポトーシス抑制に関わる重要な代謝物として「アデニロコハク酸(S-AMP)」を特定しました。S-AMPは、DNAの構成成分であるプリン塩基の中間代謝産物で、細胞の成長や再生に関与しています。さらに、S-AMPの材料となるアスパラギン酸やイノシトールリン酸、そしてS-AMPを作り出す酵素「アデニロコハク酸合成酵素(Adss)」も同時に増加していることが分かり、S-AMPが体内で積極的に合成されていることが示されました。
本研究により、S-AMPという代謝産物が、増殖の促進やアポトーシスの抑制を介して膵β細胞の量を増やすことが明らかになりました。今後、S-AMPがどのように働くのかを詳しく調べることにより、膵β細胞を回復させる糖尿病治療への応用が期待されます。
本研究の成果は7月10日(木)に米国科学誌Diabetes(American Diabetes Association:米国)において公開されました。
?雑誌名:Diabetes(American Diabetes Association:米国)
?公開日:2025年7月10日
?タイトル:Adenylosuccinate mediates imeglimin-induced proliferative and antiapoptotic effects in β-cells.
研究内容詳細
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プレスリリース資料
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